新型コロナウイルスの感染拡大で『アルコール消毒液』が多用される中、体質的に“アルコール”を苦手とする人たちが苦しんでいます。消毒液に触れた手にカユミを感じたり、発疹が出たり、重い場合には呼吸困難に陥る恐れもあるようです。
これらの症状が出る人は「アルコール過敏症」「アルコールアレルギー」であるとも言われていますが、どのように対応すればよいのでしょうか。
考えられる3つのパターン
(1)『アルコール過敏症』の場合
(2)『アルコールアレルギー』による接触性皮膚炎をおこしている場合
(3)アルコールの刺激で物理的な接触性皮膚炎をおこしている場合が考えられます。
アルコール過敏症は、お酒が飲めない『アルコール不耐症』の事をいいます(ここでいう『アルコール』はエタノールのこと)。アルコールを飲むと、顔や体の皮膚が赤く火照ったり、頭痛、動悸(どうき)、吐き気、嘔吐(おうと)などの症状が出たりする人ですが、消毒用アルコールに触れることでも、皮膚の発赤やかゆみが出現することがあります。
原因は、アルコールの分解にかかわる酵素の活性が遺伝的に低いことです。人が摂取したアルコールは、肝臓でアルデヒドという物質に変化しますが、このアルデヒドがさまざまな症状をもたらします。
アルデヒドは、アルデヒド脱水素酵素により無害な酢酸となり、最終的には二酸化炭素と水に分解されます。アルコール過敏症には、アルデヒド分解酵素の活性が遺伝的に弱いか欠けていて、原因となるアルデヒドの分解がゆっくりであるため、症状が出やすくなります。
アルデヒド脱水素酵素は皮膚にも存在していて、皮膚についたアルコールは皮膚で分解されます。アルコール過敏症の人がアルコールに触れると、アルコールの分解過程でアルデヒドが皮膚にたまり、毛細血管を拡張させるため、赤みやかゆみの症状が出るようになります。
アルコール過敏症の人でも、皮膚に症状が出ない方もいます。酵素の活性な程度によると考えられます
アルコールアレルギーの人は、どのようにして発症するのでしょうか。
「アルコールアレルギーの場合は、アルコールがアレルゲン(アレルギー原因物質)となり、体内で過剰な免疫反応が起こり、さまざまな症状を引き起こします。
発赤やかゆみが出る軽度の接触皮膚炎から、全身のジンマシン、呼吸困難やアナフィラキシーショックといった重篤な症状が現れる可能性もあります。アレルゲンの量に関係なく、少しでもアルコールに触れたら、じんましんや呼吸困難などが現れる可能性があります。
アルコールアレルギー・アルコール過敏症は同じものではありません。アルコール過敏症の場合は、アルコールに触れる量が多くなるほど症状が強くなります」
「アルコールの刺激で物理的な接触性皮膚炎をおこしている場合」はどのような原因なのでしょうか。お酒に強い人でも症状が現れるのですか。
「皮膚に接触した刺激物質が皮膚の中に侵入して炎症を起こすと、皮膚炎(かぶれ)が生じます。原因となる刺激物質は、日用品、化粧品全般・植物・食物・金属・医薬品などさまざまです。これはお酒に強い弱いに関係なく、また、アレルギーにも関係なく症状が起こり得ます」
医療機関を受診すべき目安は
「(1)(2)(3)のいずれの場合でも、アルコール消毒を頻繁に使用して湿疹になり、悪化した場合は、皮膚科を受診して治療を受けた方がよいでしょう」
アルコール消毒液で手が荒れるなどして、「もしかしたらアルコール過敏症かもしれない」「アルコールアレルギーかもしれない」と思った人が、自己診断する方法はありますか。
「アルコール過敏症かどうかは、自宅でできる簡易的なパッチテストが目安になります。消毒用アルコール数滴を染み込ませたばんそうこうを7分間、上腕の内側に貼り、剥がして10分後に肌の色を見ます。はがした直後に肌が赤くなっていれば、お酒が飲めないタイプ、10分後に赤く変化した場合は、お酒が弱いタイプの可能性があります。
ただし、『アルコールアレルギー』の診断は、皮膚科やアレルギー科で検査を受けた方がよいでしょう」
もし、皮膚に症状が出たら…
Q.アルコール消毒液で皮膚症状が出た場合の治療法は。特に、呼吸困難になった場合はどうするのか、教えてください。
「残念ながら、原因となるアルコール過敏症やアルコールアレルギーを改善する治療法はありません。アルコール・アルコールを含んだものを避けることが大切です。
アルコール過敏症の人が消毒液を触って症状が出た場合は、水道水でよく洗い流した後、保湿クリーム等を塗って保護し、湿疹が出た場合はステロイドの軟膏(なんこう)を塗るなどします。アルコールの刺激で物理的な接触皮膚炎を起こした場合も、同様の治療となります。
アルコールアレルギーでショックを起こしたり、呼吸困難になったりした場合は、命に関わる状態ですので、直ちに救急車を要請して救急病院に行くべきです」
Q.新型コロナウイルスの感染拡大が懸念される中、アルコール過敏症やアルコールアレルギーの人は、手指の消毒をどのようにすればよいのでしょうか。
「アルコール消毒の主成分であるエタノールがダメな場合の代替薬として、まず『イソプロパノール』が挙げられます。イソプロパノールはエタノールと同等の殺菌力がありますが、やや刺激が強いため、肌荒れしやすい欠点があります。
その他、殺菌力が強いものとして『ポビドンヨード』(商品名『イソジン』など)がありますが、色(褐色)がついていて、ヨウ素独特の臭いがあり、ヨードアレルギーの人は使用できません。その場合、エタノールより殺菌力は劣りますが、『クロルヘキシジン』『ベンザルコニウム塩化物』などを使用することになります」