老後の資産形成は誰にとっても重要な問題です。なかなかお金が貯まらないという方も多いでしょう。つみたてNISAは老後の資産形成の一助になるのでしょうか。今回から5回に分けて、つみたてNISAの使い方を解説します。初回は、つみたてNISAの基本的な仕組みを中心に解説します。
30年後に今の60歳代と同額の貯蓄はできますか?
皆さん、ちゃんとお金を貯められていますか?
社会人になると、誰でもいつか意識せざるを得ないのが「財産づくり」です。といっても、恐らく20代の頃はほとんど意識しないかも知れません。定年なんて、先の先の、そのまた先のことですからね。
でも、50代になると誰もが俄然気になりだします。
それはそうでしょう。50代といったら会社員人生の最終コーナーですから。待遇は会社によってまちまちですが、50代も半ばになると役職定年を迎えてお給料が頭打ちになり、60歳を迎えて雇用延長になった時点で、お給料はピーク時の6割くらいまで減額されます。
この時点までにいくら貯められるでしょうか。
今、30歳の人からすれば、「役職定年を迎える55歳まで25年もあるから何とかなる」と思っているかも知れません。
でも、実際にやってみると意外とお金って貯まらないものなのです。
現実問題として、50代で金融資産を保有していない世帯は17.4%、60代で22.0%もいます。また年代別の平均貯蓄額は、金融資産を保有している世帯のみだと以下のようになります。
20歳代・・・・・・370万円
30歳代・・・・・・810万円
40歳代・・・・・・1238万円
50歳代・・・・・・1828万円
60歳代・・・・・・2415万円
ただし、この60歳代はあくまでも今の時代の60歳代の平均貯蓄額であって、今の30歳代の人たちが今から30年後に60歳代になった時も、同じ平均貯蓄額になるかどうかは分かりません。
平成の30年間で、年功序列賃金や終身雇用制度という、日本の幸せな中流家庭を形作った制度はほぼ崩壊していますから、恐らく二極化が進むのでしょう。
つまり、物凄く稼いで貯蓄額を増やせる世帯がある一方で、その日の生活が精いっぱいで貯蓄なんてまるで出来ない世帯が、今以上に増えている恐れがあります。
しかも、これから日本の超高齢化は一段と加速していきます。高齢者の人口が増える一方、社会保障制度を支えている現役世代の人口は減っていきます。結果、現役世代の社会保障負担は重くなり、高齢者が受け取れる年金の額は徐々に目減りしていくのは明白です。
年金財政は破綻しません。でも、そこから得られる果実はどんどん小さくなります。だから、20歳代から40歳代の人は今からすぐ、自分たちの将来のためにも資産形成をする必要があるのです。
元本800万円分のリターンが非課税に
ということで、本題の「つみたてNISA」です。NISAとは「少額投資非課税制度」のことで、2014年1月から開始された、投資によって生じた利益に係る税金を非課税にする制度です。
対象となる投資商品は株式の個別銘柄、ETF、J-REIT、株式投資信託など幅広く、当初は個人の長期的な資産形成に資する狙いでスタートしたのですが、テンバガー狙いの個別銘柄投資や、レバレッジ型ETFで短期的に大きなリターンを狙う短期トレーダーが制度を悪用するのではないかという意見もあり、2018年1月から長期資産形成用の制度として登場したのが「つみたてNISA」です。
ここでは便宜上、2014年から始まったNISAを「一般NISA」と称して、つみたてNISAと区分して説明していきます。
一般NISAは2023年まで利用可能ですが、制度改正によって「新NISA」になり、投資可能期間が2028年まで5年間延長されました。新NISAについては、非課税投資枠がやや複雑になるのと、つみたてNISAとの併用が認められていないので、本稿ではこれ以上、触れません。新NISAに関して詳しい話は、マネープラスでも取り上げられていると思いますので、そちらを参考にしてみて下さい。
さて、つみたてNISAは当初、2037年までの制度としてスタートしたのですが、新NISAが創設されることに伴い、投資可能期間が2037年から2042年まで5年間、延長されることになりました。つみたてNISAの非課税枠は、新規投資額の上限が年40万円で、全体の非課税投資枠は最大800万円なので、口座を開設するかどうかで迷っている人も、2023年までに積み立てをスタートすれば、非課税投資枠いっぱいまで利用できます。
そして、この800万円について発生した投資のリターンについては、全額が非課税対象になります。800万円が1200万円になった場合、課税口座であればリターンに相当する400万円の20.315%が税金で持っていかれますが、つみたてNISAはまるまる利益になるのです。
年率7%で運用すれば1,531万円
以上がつみたてNISAの概略ですが、ひとつ注意点があります。それは、つみたてNISAですべてが解決するわけではないということです。
つみたてNISAで満額積み立てたとしても、元本部分は20年間の積立で800万円です。もちろん、これにリターンが上乗せされるので、実際にはもっと大きな額になるとは思いますが、マーケットを対象に運用する制度なので、いくらまで増えるかは分かりませんし、絶対に元本割れしないという保証もありません。
仮に毎月3万円ずつ、つみたてNISAで積立投資を続けるとしましょう。期間は20年間を想定します。
ちなみに、これは本当に制度として使い勝手が悪いと思うのですが、つみたてNISAの年間上限は40万円なので、これを12か月で割ると、1か月あたりの積立金額は3万3,333円で端数が生じてしまいます。
したがって、月々の積立金額を3万円にして、年間上限額との差額分である4万円については、他のどこかの月の積立額を増やして調整することになります。
面倒なことこの上ありません。
なので、ここでは端数を考慮せず、毎月3万円ずつ積み立てたケースを想定しますが、それだと20年間の投資元本の総額は720万円になります。
そして、年率7%のリターンで運用できたとすると、720万円が1,531万2,182円になります。60歳前後になった時、それまで20年をかけてコツコツ積み立ててきた資金が1,531万円程度に増えていたら、それはそれで長い老後人生において心強いと思います。
つみたてNISAだけで老後不安は解消しない
でも、このシミュレーションは毎年7%平均で運用できたという前提ですが、実際のマーケットはそんなに都合良く動いてくれません。大暴落があれば、年間のリターンが10%超のマイナスになることも普通にあります。1,531万円という数字は、相当に脆いものと思っておいた方が良いでしょう。つみたてNISAを始めたからといって老後の不安が一掃できるわけではありません。ただ、「何もやらないよりはまし」という程度の話なのです。
1,531万円って、結構な大金であるように見えますが、実はそれほどでもありません。
よく考えてみて下さい。60歳で仕事の第一線から身を引いて、公的年金を満額受け取れる65歳までの5年間、この1,531万円で凌ごうとしたら、1年あたりの使える金額は306万円です。
「たったの」と言ってはなんですが306万円。豊かな老後とはあまりにもかけ離れた金額です。
つみたてNISAは、特に給与所得者にとっては資産形成のマストアイテムですが、それだけで経済的に不安のない老後生活は期待できません。
つみたてNISA以外にも定期的にキャッシュフローを生み出してくれる資産をいくつか持ち、定年後もある程度のお金を稼げるように、スキルを磨くなどして自分の付加価値を高め、出来るだけ長く働けるようにしておくこと。
こうしたさまざまな対策を講じるなかのひとつが、つみたてNISAなのです。