年末調整の書類がくばられる季節になりました。生命保険料・住宅ローン控除については毎年書類を提出している人が多いのではないでしょうか。「最近では、この2つに加えて『小規模企業共済等掛金控除の証明書』を提出するケースが増えてきています。
ところが、その証明書の圧着ハガキを開かずに捨ててしまう方が実際にいるのです。
なぜ年末調整が必要なのか
毎年、11月頃になってくると会社の総務や庶務の係から「年末調整をする為に必要な書類なので、記入して○日までに提出して下さい」と言われ、用紙が配られます。みなさんの多くもおそらくその経験があるでしょう。
実際に年末調整の場合は、還付すなわち税金が戻ってくる場合が多いので、ちょうど年末のボーナスが支給された後、何だかプラスアルファのおまけみたいな感じで税金の戻りがあることに何とも言えない幸せ感をもつ人も多いでしょう。
そもそも年末調整と言うのは一体どういうものなのでしょう。勤め人の場合では、会社は毎月の給料から所得税を天引きします。これが「源泉徴収」ですね。給与明細を見ると所得税・住民税が差し引かれているのでご存じだと思います。所が毎月の給与から引かれる所得税はあくまでも概算でしかありません。
その理由は向こう1年間の間に給与や賞与の金額が変わることもありますし、結婚・出産、あるいは保険への加入や住宅購入といった事によって当初は予定していなかった「所得控除」が発生するからです。
◆アメリカにはないシステム
したがって、まれに追加徴収という事もありますが多くの場合は税金の額が調整され、戻ってくるのです。これには一見とても便利なシステムのように思えます。自分は何もしなくても必要書類だけを提出すれば会社が全部やってくれるわけですから、確かに便利でしょう。
ただ私個人の意見としては、これはあまりよい仕組みだとは思っていません。例えばアメリカでは、年末調整というシステムはありませんので、給与から源泉徴収された後に自分で申告をして税金の還付手続きを受けなければなりません。
面倒なように思えますが、実際には自分で申告をして税金の還付手続きを税や社会保険の仕組みを理解する事ができます。
これは言わばお金に関するリテラシーを高める事になります。それには、政治家の役割というのは究極のところは“国民の税”と社会保険の負担と給付を考える事ですから、それらに高い関心を持てば“必然的に政治”にも関心を持つようになるのです。
◆最近提出が増えている第3の添付書類
とは言え、現実には「年末調整」というシステムがあるわけですから、その仕組みをきちんと理解しておく事は大切です。一般的には、年末調整によって税金の額が変化する代表的なものは
①扶養家族の情報
②生命保険料等の控除
③住宅ローン控除といったものです。
このうち、②は保険会社から送られてくる「控除証明書」、③は銀行から送られてくる「住宅取得資金の借入金年末残高証明書」を添付して会社に提出します(生命保険のうち、保険料が給与天引きの場合は提出が不要です。また住宅ローン控除には、初年度が確定申告で、年末調整は2年目からとなります)。
このあたりはほとんどの方が毎年実際に提出していると思いますので、あらためてお話する必要は無いと思います。最近では、これら2つに加えて「小規模企業共済等掛金控除の証明書」を提出するケースが増えてきています。
あまり聞き慣れない名前ではありますが、これは一体何かというと、最近利用者が急増している“iDeCo”(個人型確定拠出年金)の掛金に対して所得控除を受ける為に、必要な書類です。
“iDeCo”の加入者なは、2021年の8月末時点では210万人を超えています。サラリーマンや公務員での加入者も180万人以上いますので、これを読んでいる読者のみなさんの中にも恐らくiDeCoの加入者がおられる事でしょう。
iDeCoの税メリットはいくらになるか
iDeCoは加入する時に色んな税のメリットがあるという話を聞かされますが、最大の税メリットは掛金の全額が所得控除されるということです。この金額はかなり大きいものです。
例えば給与所得者の場合だと、公務員は掛金の上限額は年間で14万4000円で、民間企業の場合だと、勤め先の年金制度によって変わりますが、14万4000円~27万6000円までとなります。iDeCoの場合には、この全額が所得控除となるのです。
生命保険料控除・個人年金保険料の控除には、住民税と所得税を合わせてそれぞれ最大6万8000円ですから、最も少ない公務員でも各保険料控除の倍以上あります。
では具体的にどれ位らいに税金がお得になるのかと言うと、仮に掛金の上限額が毎月2万円の場合で計算すると年収500万円の場合で、年間約4万8000円の税金が戻ってきます。(iDeCoナビ参照。上記金額はあくまでも概算で、実際の金額とは、異なります)。
圧着ハガキを開けないまま捨てる方も
具体的にはiDeCoに加入していれば毎年10月末頃に国民年金基金連合会から自宅には「小規模企業共済等掛金控除証明書」が圧着ハガキで届きます。
そこに記載されている金額を年末調整の書類に記入し、送られて来た証明書をそえて提出をすれば良いのです。
ころがこのハガキ、中を見ないままに捨ててしまっているという方も実際にいます。
◆iDeCoに加入していることは認識していてもそれを年末調整の際に出すのを忘れてしまうと、これだけの税金の戻りを受け取る事ができなくなってしまいます。
仮に30歳でiDeCoに加入して、上記の条件で60歳まで積立を続けた場合には、積立額の累計は720万円となりますが、税金が戻ってくる分は何と144万円にもなります。iDeCoの税メリットの中で最も大きな所得控除を気付かずに、あるいは忘れてしまっているというのは実に勿体ない事です。
忘れた方には、翌年の確定申告でも間に合う
ただし、仮にこれを提出しなかったために年末調整で還付されなくても、その事に、“気が付けば”翌年の確定申告で申告することで還付は受けられます。
また、これを提出しなくても年末調整で自動的に会社が処理してくれるケースもあります。それはiDeCoの掛金を会社が給与から天引きしてくれているケースです。しかしながら“iDeCo”というのには、個人が自分の老後資産形成の為に行うものですから、基本的は、会社には、あまり関係ありません。
最近では、個人の出す掛金に会社が掛金を上乗せする“iDeCoプラス”という制度も広がりつつありますが。この場合であれば給与天引きしてくれますが、まだそういうケースはまだ、少ないのが現状です。
やはり自分のところに送られて来た「小規模企業共済等掛金控除証明書」はきちんと取っておき、年末調整での用紙が配られた時には一緒に提出する事を忘れないようにする事が“重要”です。
最近では年末調整で提出する書類の1つである「保険料控除申告書」にも「確定拠出年金法に規定する個人型年金加入者掛金」という項目が作られています。
iDeCoに加入し、最初の引き落としが10月となった場合は、書類が送られてくるのがその少し後になりますので、年末調整で提出するには間に合いません。その場合には、翌年に確定申告をすればいいでしょう。
税や社会保険についてはよくわからないからと放っておくと受け取れるはずのお金がもらえなくなる事もありますので、年末調整といえども会社に任せきりにするのではなく、ちゃんと理解をしておいた方がいいですね。