「人をダメにするベッド」――。その不思議な名前の商品が登場したのは2014年1月の頃でした。
ヒット商品を生み出しにくいとされた家具業界で、ツイッターやSNSでジワジワ話題になった、ロングランのヒット商品だ。売り出したのは家具ネット通販(EC)の「LOWYA(ロウヤ)」(ベガコーポレーション運営)です。
なぜ人をダメにするベッドなのか。ロフトベッドには、洋服ハンガーや棚、スマートフォン(スマホ)の充電コンセント、PCや読書、食事ができるデスクなどが手の届く範囲にある。ベッドにいながら生活が完結。あまりに便利すぎて、秘密基地さながらの外観を呈するベッドの中から、抜けられなくなるという事で。それだけ人を虜にしてしまう。
◇期待されなかったのに、ツイートで突如拡散に
実はこの商品、当初は社内でも、「売れるわけがない」といった意見が多く、「このまま売り切って終わるか」くらいの位置づけだったという。もともとは、ステーションベッドでジャンルは他社商品が存在していましたが、おしゃれで機能的な商品がない。そのために、ステーションベッドのニーズを追求し、自社でデザイン・開発をした。期待されなかったものの、発売3カ月後の4月、ブログ経由で多大なアクセスが流れ込み、ツイッターで1日100人くらいだったアクセスが突如、5000人になって拡散。想定より10倍も売れる結果となった。
同商品を元祖に、ベガではその後にも、「おしゃれに『人をダメにする』ベッド」などシリーズ化して販売。これまたツイッターで話題となり、今でもツイートがやまないですね。
「仮にこのベッドが1個あったら、日曜日に、このベッドだけで生活できるというようなベッドです」とベガの創業者です
若者のインドア志向、SNS映えしやすいネーミングで、一人暮らしが主流となった都市の住宅事情。それらの要素が見事に合致して、20代から40代前半の消費者たちの心をとらえた。
人をダメにするベッドだけではない。猫とテレビ台という、その意外性が受けてヒットしたのが、「キャットウォークテレビデスク」だ。
猫が遊べるキャットウォークと壁面テレビ台を組み合わせ、家具業界の中で、キャットタワーとテレビ台を一緒にするなどチャレンジングなのは、ウチならでは。昨今の猫ブームも追い風に、新たな価値提案をして、顧客の潜在ニーズを引き出した。
こうした商品力の強みに加え、地味ながらも自社サイトのLOWYAで貫いている点は、徹底した商品への詳しい解説である。
商品をあらゆる角度から撮影して、解説付きの商品写真を何枚も何枚も載せる。ネジ穴の間隔を測った写真から、引き出しの中の写真など、商品の細部までとことん商品を見せる。もちろん数値も重要で、家具のあらゆる寸法が入った写真を載せるのは当たり前。それまでのは家具業界は写真1枚で売る慣習でした。商品の下部がどうなっているかなど、細かい問い合わせが多く、自社の撮影所で撮った写真やGIFアニメで商品説明を作るなど模索した。それが好評でした。
低価格面も訴求した。ベガが築きあげたビジネスモデルとは、低価格で、サイトへの細かいこだわり、デザイン性のあるオリジナル商品の開でした。衣料分野では「ZOZOTOWN」が未開の地を切り拓いていったように、家具ECの先駆けとしてベガは閉塞していた家具業界を駆け上がっていった。
「在庫を持たず楽天にも出店したものの、参入コストが低いので、他社も同じことをすぐ始めて、メーカーも参入し出した。自社での仕入れ値で売るようになり、他社も同じことをすぐ始めて太刀打ちできなくなってきました」そこで◇リスク◇がある、自社ブランドの商品で在庫を抱え、メーカー機能も持つ必要性を実感する。それも、他社のプラットフォームに乗っかるだけでなく、自社ECです。2006年、◇LOWYA◇の誕生であるで(現在の販路は楽天が約6割、自社のLOWYAが約2割)。
自社商品を作る決意をして、初めて中国へと飛んで。右も左もわからずに、中国人の友人と中国中をまわり。
「日本品質に合う工場を探しに、エアコンの利かないボロボロのタクシーで、現地のおいしいとは言いがたいコンビニのパンを食べながら移動しました。工場の噂を聞いて遠い奥地まで飛行機で移動し。やっとのことで工場へたどり着き、聞いていた商品とは程遠く、交通費を無駄にした事もあった」という。「ようやくのことコンテナ1個を目し、さてどうやって貿易手続きするのというような調子での。貿易手続を見よう見まねでの、小さい倉庫を借りて直販していった」
国内の仕入れはさらに困難を極めた。当時は、どのメーカーもネット通販には懐疑的で、取引してくれる企業はごくわずかだった。その中で頭を下げ続け、取引をしてくれる企業から探っていった。
設立3年目、再び壁にぶつかる。ネット通販が一般化して行き、他社やメーカーが参入し始めたことが売上高を圧迫し始めました。
「3年目の赤字がいちばんきつかった。過去に単月で赤字なのは2006年8月だけ。あの時の精神的ショックは大きかった」「当時は借り入れもできない、投資先もない、社員もほぼいないと、孤独だった。相談相手が居ないって、どんな心境かわかりますか。あのときを超える精神的なつらさはたぶんもうない
どん底を何とか乗り切り、自社ECのLOWYAが軌道に乗ってきたことでの、ベガの業績も上向きに転じていった。売上高では2010年3月期に10億円、2017年3月期には100億円を突破。その間に2016年6月には、東証マザーズに悲願の上場を成就した。今2019年3月期は売上高140億円へと伸びる一方、配送料増加などが響いて1.5億円の営業赤字見込ですが、来期は自社ECの伸びに加え価格転嫁や配送料抑制によって、黒字転換を目指す。
「これくらいのリアリティーがないとダメなんじゃないかと、実物に近いクオリティーで3D配置しようとこだわった。最終的には人間に(頭で)想像をさせたくない」
◇他社巻き込み、目指すは業界のプラットフォーム
ベガの場合は、自社ECとしては、自社製品を扱う旗艦店のLOWYAのほか、大塚家具やフランスベッドなど他社の家具を販売する「Laig(ライグ)」、さらに国境を越えて通信販売を行う越境EC「DOKODEMO(ドコデモ)」の3本柱を持つ。
訪日外国人観光客(インバウンド)が2018年に約3119万人に上るなど、インバウンド需要が増す中、自社の越境ECは同業各社との連携を図れる有力な武器だろう。「訪日した旅行者が日本の商品にて触れ、国に戻った後に商品を手に入れたくても、高かったり、入手できなかったりする。これは販売チャネルの問題で、機会損失が生まれてしまう。実はサーバー1つで解決できる」
そのとき、ベガでのECに出店している他社も手軽に越境ECを活用できれば、ともに世界市場を掘り起こせる。同業を巻き込んで、業界全体のプラットフォームをもくろむ、壮大な構想といえます。
年間1000社以上の上場企業をリサーチする分析広報研究所の小島一郎チーフアナリストは、「中国ネット通販最大手のアリババ(阿里巴巴集団)をはじめ、中国マーケットで生きのびているコマース会社は相当強い。それに対抗して選ばれる商品力やブランディング、世界観を作るのは難しいし、日本のブランドだというだけで選ばれるほど甘くはない。『LOWYAを買ってるんだ、すごい』と思われるようにブランド化なったら、桁が変わって売れるのだろう」と指摘する。
ベガが越境ECで同業他社を巻き込んで世界市場をねらうときに、中国や他国の消費者をうならせる現地にない圧倒的な世界観を発信できるか。その手腕が試される。
「人をダメにするベッド」の登場から5年。ベガは中長期でLOWYA事業を1000億円にする目標を大きく掲げる。まだかなり遠い目標ではありますが、家具ECの風雲児が再び市場の起爆剤となりうるか。業界も投資家も、ベガの次の一手に注目している。